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アルツハイマー病に対するアミロイドβ抗体治療について

2023年12月アルツハイマー病に対し進行を少し遅らせることのできる薬(レカネマブ、販売名レケンビ)が認可されました。その後2024年11月に同様の効果が期待できる薬(ドナネマブ、販売名ケサンラ)が認可され現在2種類の薬剤が保険収載されています。いずれも軽度認知障害または初期のアルツハイマー型認知症の方が対象となります。当院では抗体治療の導入は行っておりませんが、ご希望の方には適切な医療機関へ紹介を行っております。

投与に至るまでの流れについて説明します。

①まずアルツハイマー病による軽度認知障害または認知症であることを正しく診断することから始まります。家族からの病歴の聴取、脳神経内科による神経学的診察によりアルツハイマー病以外の疾患が疑われるエピソードや所見がないかどうかを調べることや、MRIや脳波、血液検査により、外科的な治療が可能な病態や既存の薬剤で治療可能な病態がないことを慎重に調べることにより診断を行います。

②アルツハイマー病による軽度認知障害または認知症であると診断されたら、抗体治療開始に先立ってアミロイドPET検査または髄液検査を行いアミロイドタンパクが存在していることを確認します。アミロイドPET検査と髄液検査によるアミロイドタンパクの確認の違いですが、髄液検査では腰椎の隙間から針を入れて髄液を採取する腰椎穿刺を行う必要があるため侵襲性がとても大きくなります。このため当院では髄液検査ではなくアミロイドPET検査を行うことを推奨しています。またアミロイドPET検査は大掛かりな設備が必要で全ての基幹病院にあるわけではありません。このためアミロイドPET検査を抗体治療を行う病院の中で行える場合と、アミロイドPET検査のために他の病院に行かなければならない場合があります。当院では抗体治療を行う病院の中でアミロイドPET検査を行うことができる病院を推奨しています。

③当院からの上記アミロイドβ抗体療法の導入施設への紹介を行い、予約を取り受診いただきます。その後必要な診察、検査ののち投与が開始されます。もちろん診察、検査の結果、投与が行えない場合もありますが、これは有効性や安全性の点で患者様にメリットがないという理由によるものです。

抗体治療について有効性、安全性について正しく理解いただく必要があります。このお薬は2週間に一回または一か月に一回点滴で投与します。治験では2年間観察し進行を25%程度進行を遅らせることができました。一方で副作用としてはレカネマブでは抗体投与に関連する脳の浮腫状変化(ARIA-E)が12.6%の方、脳内微小出血やクモ膜下出血を含む頭蓋内出血性変化(ARIA-H)が13.6%の方で見られました。ドナネマブではARIA-Eが24.0%、ARIA-Hが31.4%とより多くの方で見られました。多くのARIA-E, ARIA-Hでは症状はなく、適切に投与中断を行うことにより後遺障害なく改善することが分かっていますが、一部の方ではARIAによって認知症の増悪や麻痺の出現、生命に関わることが報告されています。

これらの治験での副作用の報告を受けて、特に生命にかかわる副作用を避けるため、アミロイドβ抗体製剤を投与された方が脳梗塞を発症した場合に出血リスクのため血栓を溶かす薬の投与ができません。

まとめますと、進行を25%程度遅らせる治療であること、かなりの頻度で脳に発生する副作用がありまれに重篤な結果となりうること、抗体治療を行うことで脳梗塞治療薬に用いる血栓を溶かす薬の投与ができなくなること、を十分にご理解いただいた上でこの薬剤を投与すべきかどうかについて患者様の年齢や環境を熟慮したうえで判断する必要があります。

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